制度改革への一歩は「逆指名」の廃止から
江夏豊が語るドラフト改革〜
2005年12月02日

慎重に言葉を選びながら、ドラフト制度への意見を述べる江夏氏【 スポーツナビ
 「プロ野球改革元年」と言われた2005年、改革路線の目玉の一つとして「ドラフト制度の改革」も挙げられ、8月の構造改革協議会ではさまざまな案が検討されたのをご存知だろうか。その結果、ルール的には昨年の制度に近いNPB案が採用され、今年も96名(育成ドラフトを除く)の有望な選手が指名されたが、制度改革が前に進んでいるのかどうかは一般の目には分かりにくい状況である。

 今回、スポーツナビでは「ドラフトへの提言」と題し、プロ野球の未来を真剣に考える方々のご意見を紹介する連載を企画した。第1回は野球評論家の江夏豊氏が語るドラフト改革。「ドラフト制度はこのままでいいのか」「改革を議論する上で大切にすべきこととは何か」。多様な意見の中から、改革へのヒントを探っていく。<取材・構成 西澤洋之>


■18歳も22歳も同じプロとして同じ条件に
――まず最初に現行のドラフト制度についてはどのようにお考えですか

 われわれのような一評論家が、偉そうなことを言える問題ではないのだけれど、もしドラフト制度をこれからも保っていくのなら、もう少しクリーンな部分ともう少し平等な部分があるといいかな。

 例えば、高校生に「希望入団枠(逆指名)」がないのに、社会人にはあるという考え方は非常に疑問に思う。昨年の阪神の辻本(賢人)君のような特例は別として、高校出の18歳であろうが、社会人出の20歳であろうが、大学出の22歳であろうが、年齢に差があっても、プロの世界に入れば同じプロ野球選手として扱われるわけだから、彼らを同じライン、同じ条件に置いてもらいたいね。

 「希望入団枠」のような逆指名制度は、入り口も狭く制限され、出口も狭く制限されては選手がかわいそうという理由でできたわけだけど、少なくとも、高校生も大学生、社会人も同じ条件にしてもらいたい。(現行の制度では高校生に「希望入団枠」がなく)同じプロの世界に入る選手に対して平等じゃないという意味で、僕は今の制度には大反対。

 また、われわれの時代は「プロに誘われたらそれだけで光栄」という、夢があったよね。今の時代は、ドラフトを見ていても、出来レースが多いというか、何か夢がないと感じるな。


■よりシンプルでよりクリーンに
――「夢がない」と言われましたが、具体的にどのような点についてそう思いますか

 例えば、あれは2000年、巨人の阿部(慎之助)がまだ大学生のとき、彼が日本ハムのキャンプに参加したときに見た光景だけど、他球団のキャンプに巨人のスカウト3、4人がぴったりと阿部についていて、巨人以外のスカウトは一切手を出さない。人気や資金力の差があるからなのか、手を出したくても手を出せないというのが現状らしい。全く夢のない話だよね。

――夢がなくなってしまった理由の一つに「逆指名制度(現:希望入団枠)」があるのでしょうか

 そうだね。僕は裏金のうわさが絶えない「逆指名」は廃止した方がいいと思う。契約金の上限は1億円プラス出来高払い5000万円。でも、果たしてその金額におさまっているのかどうか。うそかほんとか知らないけど、あの球団のだれだれには何十億だとか、そういううわさが絶えないじゃない。

 今後、制度改革を議論していく上で大事にしなければいけないことは、よりクリーンな制度にしていくことじゃないかな。もっとファンが納得できるように、シンプルでクリーンな制度であってほしい。

 「ドラフトは何のためにやるのか」というと、有力な選手が1チームに集まらないために、各チームの戦力の均衡を保つために始めたわけでしょ? そういう意味では、最初から(日本のプロ野球界では一度も採用されていない)「完全ウェーバー」にしておけば、良かったのかもしれないね。


プロ野球界が魅力ある世界であり続けるために
「クリーンで平等なドラフトを」。ドラフト改革について持論を展開する江夏氏
「クリーンで平等なドラフトを」。ドラフト改革について持論を展開する江夏氏【 スポーツナビ
――完全ウェーバー制度というのは、アメリカのメジャー・リーグで採用されている、逆指名を許さず、下位の球団から順番に選手を指名していくシステムですね

 完全ウェーバーにもメリットがあればデメリットもある。メジャー・リーグで必ずしも戦力均衡が達成されているかと言われれば、そうとも言えないけれど、日本の今の制度はもやもやしているというか、あまりにもクリアでなさ過ぎるよね。

 改革の根本に考えるべきは、選手と球団とお金の関係――それしかないでしょ。現状を打開するための一案、クリーンなドラフトへの第一歩として、逆指名がないドラフトをやってみたらどうかと僕は思うけどな。

 そして、プロの選手になった後は、実力主義で、シンプルな制度で選手を評価すればいい。普通の人の年俸がいきなり10倍になるなんてことはあまりないけど、昨年の広島の嶋(重宣)君や、今年のヤクルトの青木(宣親)君じゃないけど、活躍すれば年俸が跳ね上がることがあるわけでしょ。だからこそ夢があるんだよ。一般の方が見て、「プロ野球ってすごいな。夢があって、魅力があるな」と感じるような制度にしていくべきだよね。

――改革をしようという動きがあった中で、結果的には「妥協案」とも言われる現行の制度にとなったわけですが、まだまだ議論する余地がありそうですね

 それはあるでしょ。でも、権限を持っている人たちの「自分の任期の間に大きな支障がなければいい」というケチな発想が大きな問題。本当に野球界のことを考えている人が上の方に少ないのが一番の問題じゃないかな。やっぱり「野球を愛しているかどうか」は大事なポイントだよ。野球を愛する人にこそリーダーシップをとってもらって、オープンな議論をして、現場であろうが、雇う方であろうが、コミッショナーサイドであろうが、ビジネスであればあるほど、よりクリーンな制度にしていってもらいたい。そう思うね。

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/npb/05season/draft/topics/proposal/200512/at00006826.html