資料

grosjean2006-01-30

縁起でもない話だが……

 城島健司がめでたくシアトル・マリナーズに入団した。契約年数は3年で、出来高も含めると最大1900万ドル(約22億6000万)という大型契約。しかし、のっけから縁起でもない話かもしれないが、ことしのメジャーリーグは10月まできちんと行われるのかどうか……。不安は尽きない。

 公共のバスといい、学校の先生といい、テレビ局といい、アメリカはストライキが好きなお国柄。こう言うと、ある選手から、「ストライキ期間中、選手は給料をもらえるのですか?」と質問されたが、有給休暇とは違うのだからもらえるわけがない。年俸を試合数で割って、ストライキ期間中のサラリーは削除される。高給取りの選手ほど、損害は大きいというわけだ。


ぎりぎりの労使協定

 2002年の8月、メジャーリーグは危うくストライキ突入寸前という事態にまで進展した。ちょうどマリナーズがぶっちぎりで首位を走っているとき、オーナー側と選手会組合の話し合いが泥沼化。後に長谷川滋利が、「仲間と話して、今回はもうストライキは避けられないと思っていた」と振り返ったほどだ。しかし、30日の夜に“起死回生のサヨナラ本塁打”が飛び出し、劇的な解決をみた。主に「所得分配制度」と「課徴金制度」で衝突していたのだが、オーナー側が提出した妥協案を選手会のドナルド・フェア理事が承諾したのである。

 「所得分配制度」というのは、全30球団が収入の34パーセントを大リーグ機構に拠出し、それを30球団で平等に分けるというもの。オーナー側の最初の提案は50パーセントだったが、数字を引き下げた妥協案を提示して、時間ぎりぎりで合意に至った。
 一方、「課徴金制度」は形を変えたソフトな「サラリーキャップ」みたいなもので、02年に決定した労使協定は、1972年に始まって以来、初めて選手会組合側が折れた瞬間と言っていい。


「ぜいたく税」の盲点

 「課徴金制度」は03年を例にとると、年俸の総額が1億1700万ドルを超えた球団を対象に、超過分に対して17.5パーセントの「ぜいたく税(Luxury Tax)」を課すというもの。実は97年に選手会組合からの提案でこれを導入しているのだが、ペナルティーで支払う「ぜいたく税」が低すぎた。そのため、年俸高騰化の歯止めにはならず、3年で廃止されてしまったのである。

 しかし、現在の「課徴金制度」は「ぜいたく税」の額が大きかったため、02年のオフから年俸1000万ドルを超えるのは、ごく限られたスーパースターだけに絞られてしまった。しかも、この年俸の総額と超過分のパーセンテージは04年、05年と次第に上がってきた。

 だが、この協定にも盲点があった。
 このとき結ばれた労使協定の効力は03年から06年までの4年間。つまり、協定の最終年にあたる今季は対象となる年俸の総額こそ1億3650万ドルとやや低めだが、「ぜいたく税」の比率はゼロ。ただし、過去3年で2回目の超過だったら30パーセント、3回目以上の超過だったら40パーセントを払わなければならないので、過去にも超過している球団の負担はかなり大きくなってくる。
 
 したがって、過去3年間に一度も超過していない球団は、このオフに限っては選手にいくら支払っても「ぜいたく税」を支払う義務がない。マリナーズはまさにこれに当てはまっており、城島への大盤振る舞いもこれと無関係ではないだろう。逆に懲りずに過去3年間、連続して「ぜいたく税」を支払い続けているのがヤンキース。昨年はそのほかに、レッドソックスエンゼルスが超過していて、2度目となると30パーセントの「ぜいたく税」を支払う必要がある。そのせいか、このオフは両チームとも今のところ出費は抑え目である。


今季もこじれそうな雲行き

 現在の労使協定は今季が最後。泣いても笑っても06年シーズンで最終年を迎えるのだから、夏ぐらいから新しい労使協定を締結するための話し合いが始まるはずだ。

 ナショナル・ホッケー・リーグ(NHL)では前のシーズン、「サラリーキャップ」を巡り、全試合をキャンセルしてしまった。
 余談になるが、シカゴ・ブラックホークスの練習しているアイスリンクでおととし、フィギアスケートの村主章枝選手が練習していたので、「素敵な出会いがあるといいのにね。クリスティ・ヤマグチのご主人もホッケー選手だし」なんて話していたのだが、出会いどころか、ホッケーの選手たちは、ストライキのためヨーロッパのリーグへ出稼ぎに行ってしまった。

 メジャーリーグでも同じ現象が起き、ストライキになったら日本行きを希望する選手が出てくるかもしれない。今回の労使協定にしても、どう考えても簡単にまとまるはずもなく、また「課徴金」や「サラリーキャップ」を巡り、ストライキをするかしないか、こじれそうな雲行きだ。今季はオーナーたちはもちろん、建前上は選手を守る立場にあるエージェントたちが奔走することになるだろう。

http://sportsnavi.yahoo.co.jp/baseball/mlb/05season/column/200601/at00007453.html